冬の寒い時を選んでパリに行った目的の一つは寒いからこそ感じる
人びとの暖かさを描きたかったからである。太陽の出る日照時間は
月に合計2~3時間というからとにかく寒い。厚い毛の帽子をかぶり、
襟を立ててコートをはおり、思い思いのマフラーを首に巻きつけ、それ
でもオープンカフェに座を占めショコラ・ショー(温かいココア)やバン・
ショウー(温かいワイン)をすすり生きていることを愉しんでいる。
少しでも太陽がのぞくとどっと人が出てきてところ狭しとカフェの陽の
あたる場所を取り合っている。何百と出ている公園の椅子もあっという
間に埋めつくされ空いた椅子を探すのに大変である。この努力たるや
すさまじいものでそうでもしないと紫外線の吸収不足でくる病になったり
自律神経失調症になったりして精神を病むのである。だから冬のパリ
には少し変な人が多くなるのである。ぶつぶつ独り言を言っている人、
めそめそ泣いてる人、寒い橋の上でいつまでもボーっと突っ立ってる
人がいたりする。
カフェの人を描くのにはいつも苦労する。狙った人を描くのにすぐそばに
行って描くわけにはいかないから離れたところから描く。それも描いてる
のを見つからないようにして描かなきゃならないから目を合わせられない。
あさっての方を見てる振りしてすかさず観察してサッとやらなければなら
ないのである。時々見付かってお互いニヤっとしあったり、いいわよ描い
てもなんて態度をとってくれる人もいたりする。でも描いてるわたしの方が
パリには変なやつがいるなーなんておもわれてるかもしれないね。しかし
描いていて怒られた事一度もないね。こっちではあまり描きたいと思わな
いけどパリでならいつまでも描いていたいねえ。