駿河湾の静波海岸で育ったわたしは海の恐ろしさを少しは知っている。
遠州灘は荒海でも知られるが普段でも4~5段の波が重なってくる。台
風が接近してる時などは高い波が怪獣のように襲ってきて飲み込まれ
るような錯覚を覚え身震いする。
押し寄せる波は激しいが一時的な感じで潜ったりジャンプしたりしてや
り過ごすことが出来るが、引き潮は怖い。水深5センチ、脚のくるぶしく
らいの浅瀬でも潮の引きが速くかかとの砂を押し流しよろけてしまう。
まして水深が30センチともなれば沖に引きずり込まれもっていかれて
しまう。転んだら起き上がれないくらい引き潮の流れが速く強く目がま
わるから子どもはこれでやられる場合が多い。まったく一瞬たりとも目
を離せない。
14メートルの高波が襲い車や家を、小さな人間を押し流す光景はこれが
海の動きかと怖ろしさに震える。ましてこの押し寄せた水量が一挙に引き
返していく様はTVの映像でもみたがまるで滝に落ちていくような激しさで
全てを持ち去ってなにによっても押しとどめることは出来ない。まったく自
然の力のすさまじさのまえでは人間の力はあまりにもはかない。
宇宙に浮かぶ地球は太陽から生まれその宇宙の大気と海の中から人間
が生まれ全ての生命体が生まれた。この地球は絶えず運動を繰り返しバ
ランスをとろうと揺れ動いている。自然の営みの中で生かされている人間
もまた自然の制約の中で生きる。海が人間を生みまた海が人間の命を奪う。
海を敬い慕い喰らう人間が、また海を呪い恨み拒絶する。自然と人間はい
つになったら調和できるのだろうか。
〔パリの落書き)